5月16日〜6月17日

久々に日記を書きます。

■5月16日〜6月17日 集団創作

4月から7月まで青年団の新人ワークショップを受けている。課題として、グループに分かれて集団創作をしているんだけど、最近はこの稽古が本格的にはじまった。オリザさんの『演劇入門』(講談社現代新書)にある劇作法の通り、まず「場所・問題・背景」を決めて、グループになって登場人物、プロット、エピソードを話し合って決めていく。稽古の進め方はプロットとエピソードをもとに、ジャズのセッション俳優が即興で演技をして、何度か繰り返していくうちにシーンを固めていく、というもの。この作業は思った以上に疲れて、いまさらながら劇作家が戯曲を書く理由がわかった。あまりにも疲れて途方に暮れたときは、部分的に演出部の方々に戯曲を書いてもらったりしている。芝居の作り方を模索しながら作っている。
ちなみに、芝居は不治の病を患った父親がブッダになって三姉妹を困らせるというものになりそう。

■5月31日 演劇WS「いまここにいるというスリル〜演技と空気〜」1日目

今回の桜美林でのWSは、前回の高校生を対象にした「場の空気」を題材にしたWSをヴァージョンアップさせたものだけど、一日目は導入ということで「場の空気」とは関係のないプログラムをやった。最初に、演劇WSでは王道ともいえるいくつかのシアターゲームをやって、これまた王道の「他己紹介」をやる。2人組になって相手をインタビューしてみんなの前で発表するというもの。次に、この「他己紹介」の形式を演劇的に発展させたオリジナルプログラムをやった。
まず2人組になって、子供の頃の思い出深い友だちと、その友だちとの一番の思い出をそれぞれ語ってもらう。そして発表では、聞き手となった方が話し手が語った「友だち」を演じ、その思い出を友だちの視点で語る。つまり、ワークショップで出会った初対面に近い他人がいけしゃあしゃあと親友を演じ、自分の知らない親友視点の大切な思い出を語り始める。
ちなみに発表の形式は、一昨年、ぼくが出演した『ラ・マレア』という舞台を真似してみた。『ラ・マレア』は横浜の商店街で行なわれた市街劇で、ぼくは実際のバーでコーヒーを飲んだり新聞を読んだりという、つまり人の人生の大半を占めている「一人の時間」を演じたわけだけど、今回のワークショップでも、話し手となったひとには「一人の時間」を演じてもらった。たとえば、会場が教室だったので、机に座ってぼーっとしてもらった。たぶん授業に早く来すぎたのかもしれない。『ラ・マレア』の場合は、そこに字幕が表れて「彼は1983年に栃木県で生まれた」みたいな登場人物の背景や意識の流れが語られるんだろうけど、このワークショップの場合は、聞き手となったひとが彼の友人を演じ、舞台をうろうろしながら観客に向かって「彼の名前は菅原直樹って言って、あだ名はスガナオで、ぼくは小学5年まで彼と同じクラスでした。ぼくは小学5年の三学期に引っ越してしまったので、それ以来会ってないです。引っ越す直前に彼といっしょに『ドラえもん』の映画を観に行ったことがあって……」と思い出のエピソードを語り出す。
これはとても不思議な感覚だった。見ようによっては、どっか遠くにいる友人が、目の前にいる人物のことをふと思い出して、その意識の流れというか声がなぜかこの空間に届いてしまったようにも見えなくもない。もしかしたら、目の前でぼーっとしている人物もその友人を思い出しているのかもしれない。さらに不思議なことに、この別の次元にいるように見える二人はたまに目を合わせたり、言葉を交わしたりする……。
参加者のみなさんはいじめっ子のクラスメイトとか、ケンカ別れした友人とか、好きだった先輩とかさまざまな思い出の人物を語り、そして、それらを演じることになったわけだけど、現実ではありえないコミュニケーションが舞台上で成り立っていて、なんだかあたたかい気持ちになった。ここにはいない大切な友人に対する思いを語り、居合わせなかった他人の思い出を自分のこととして語る。見せ物としても十分いけるんじゃないかと思った。
このプログラムは機会があれば別の場所で別のバリエーションでやってみたい。演技のハードルも低いので普段演劇をやったことがないひとに気軽に演劇を楽しんでもらうワークショップとしていいと思うし。

■6月2日 演劇WS「いまここにいるというスリル〜演技と空気〜」3日目

3日目は「場の空気」を題材にした集団創作の発表。前回の高校生を対象にしたものより時間がたっぷりとあったので、とてもクオリティーが高いものができたと思う。まぁ、参加者のみなさんとしては「もっと時間くれよ」って感じだろうけど……。考えてみれば、これも戯曲を渡すのではなくプロットだけを渡して、あとは参加者の方々が即興の演技で固めていくというスタイル。シチュエーションが会社の送別会と、高校の修学旅行とあったので、学生組と社会人組に分かれて創作をしたんだけど、演技のスタイルが学制組と社会人組でまったく異なっていたので興味深かった。
さらに、単なる集団創作で芝居を作り上げただけでなく、それぞれ異なる演劇的な仕掛けがかいま見れたので、すごいと思った。社会人組は、本当に空気を読んで面倒くさいことを避けているような脱力系の男性陣、そして、その優柔不断な男性陣たちにしびれを切らして白黒をはっきりさせようとする女性陣を好演していた。学生組は、空気が壊れてからのさばっていた連中がいなくなると、まったく別の芝居がはじまったかのように、それまで影をひそめていた生徒たちがまったく関係のない話をしはじめるさまは、「現実ってこういうもんだ」という説得力があってとてもリアルだった。
参加されたみなさん、この場を借りて、ご参加いただきどうもありがとうございました。また劇場でお会いできるのを楽しみにしております!